希望の国のエクソダスを読んでみた

希望の国のエクゾダス」ISBN:4167190052、最近読んだ本の中で印象に残っている本で、記事にしたいという思いはあったが、中々実行できずにいた。


そんなおり、空気を読まない中杜カズサ - 『希望の国エクソダス』に登場するUBASUTEは、何を目的としていたのか考えてみる
http://d.hatena.ne.jp/nakakzs/20081011/1223730794 を読むことで触発していただいたので、便乗して書いてみた。


まずは物語の私的まとめと感想を。(ネタばれあります。)


この物語は、今の日本(バブルが弾け先行き不透明で希望が見えにくい社会)を背景にした小説だ。
この小説で描かれたパラレルワールドはディテールが実に細やかで、時折現実と小説の世界の境界が分からなくなるような錯覚を起こすほどだった。


この小説をはじめからおわりまで貫くキーワードは、小説のタイトルにある「希望」と言う言葉だ。

「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。でも希望だけがない。」

物語の鍵を握る人物”楠田ポンちゃん譲一”は現代の若者の代弁者的存在だ。上記の台詞は彼が物語後半で大人たちに対し放ったものだ。


物語中では、中学校で集団不登校という社会現象が起こる。現実の不登校はクラスに一人くらいの規模だが、小説では日本中のあちこちでクラスの約半数が不登校となる。


彼らは関わりが密である大人、すなわち親と先生の「良い学校や良い会社へ行けるようにがんばろうね。」というセリフの欺瞞や危うさを感じとる。良い会社に行ったら幸せになるなんて嘘だと見抜くのだ。そして希望ある未来を描けず、やむにやまれず学校や家を捨てる。そしてネットを駆使して自活の道を探っていく。


物語の中の若者たちは純粋すぎるくらいに反発する。だがそれを大人(親や教師)に主張しても「いいから言うことを聞け」と年長者の権利で圧力をかけられ、時にシカトされ取り合ってもらえない。そして問題の根深さ(実は身の回りの大人にも問題を解決する力はないこと)にも気づいていく。


この国は若者を蔑み、年長者に冨も権力も集められている。
若者が希望を持てない社会に、どんな未来があるのだろうか。
ポンちゃんたちの行動の根底を流れる思いだ。


物語の中でポンちゃんたちが起こす行動は突飛だ。しかしポンちゃんたちの感覚では全てが、単にサバイブしているに過ぎない。ジャングルの中で食糧が無くなったから狩りをするのと同じだ。


現実の社会はどうだろう。ロスジェネ問題やサブプライム問題で世界同時株安となり、一部の資金が潤沢なステークホルダーを除き不景気局面の中で生活する可能性が濃厚になりそうだ。年金に対する世論の圧力は政権を吹き飛ばしかねない反面、少子化は歯止めがかからない。時代を覆う閉塞感は小説をも凌駕する勢いを持ってしまっているとも言える。


物語の終盤に主人公(テツという雑誌記者)は恋人と入籍し子どもをつくる。ポンちゃんたちに深く関わっていく中で主人公に心情の変化が起きた上でのことなのだがこれがこの小説が放つ1つのメッセージのように私には受け取れた。


シンプルに考えれば結局、社会にとっての「希望」は子どもなのではないだろうかということ。
だから子どもや若者が生き生きとしていられる社会、「希望」を見いだせる社会でなくては、社会そのものが衰退せざるを得ないのではないだろうか。


そういった意味で、私は冒頭に紹介させていただいたnakakzsさんの指摘はうなずける部分が大きい。
空気を読まない中杜カズサ - 『希望の国エクソダス』に登場するUBASUTEは、何を目的としていたのか考えてみる
id:nakakzs:20081011 

つまり、「負債を後の世代に回すな」という若者が持つ思考に対して応えるものが、その経済であり、UBASUTEの理念ではないかとも思えるのです。この場合、もちろん雇用者側がその高齢者を受け入れる体制が整っていないといけないのですが

(UBASUTEとはポンちゃんたちと緩くつながっている味方のグループの一つだ。)
 ただ、高齢者としては一から労働に足るスキルを身につけるよりはこれまでの経験を生かしたいと思うだろう。さらには欧米(特に福祉大国と言われる国)ではリタイア生活をエンジョイする文化があるので、老人にも働いてもらうことに国内でコンセンサスを得るには、若者が政治的影響力を持つこと無しには難しいのではないかとも思える。


 ここから先(特に最後の言及)は自分には論じる力がないので、自分が参考にしているリンクを紹介させていただくことにする。小説の面白さって読んでみないと分からないな。


Chikirinの日記 -“政治影響力”方程式:チャンスなのにね。
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20080921
若者がいかに政治に影響力がないか(ないがしろにされているか)が分かる記事です。

FIFTH EDITION - 就職氷河期と資本主義
http://blogpal.seesaa.net/article/87766493.html
年功制に関する一考察です。私は正直経済学については良いイメージがない。それはTVなどで経済評論家の言っていることが人によってあまりにもぶれが大きく、しかも予測が外れることも大きいから。だから自分で論じる自信もない。
この記事は個人的には納得できることが大きかったのだが、コメント欄では意見が多彩で、やはり経済のとらえ方は多種多様すぎると感じた次第である。